1. メルセデス「EQ」ブランド終焉と、GLBが担う新時代の幕開け
メルセデス・ベンツは、EV専用ブランド「EQ」を廃止し、既存のモデル名に統合するという歴史的な決断を下した。これは単なる名称の整理ではない。ブランドが長年続けてきた「上位モデルを買わせるために、下位モデルの機能を意図的に制限する」という、いわばケチな商法との決別宣言だ。
かつてのコンパクト・メルセデスは、テクノロジーや質感において「削る」作業が施されていた。しかし、新型GLBはこの呪縛を完全に粉砕した。「最善か無か(The Best or Nothing)」の哲学を、ついに全セグメントへ公平に分配し始めたのだ。最新の「MMA(メルセデス・モジュラー・アーキテクチャ)」を核に据えたこの車は、もはや「安いメルセデス」ではない。ブランドの技術的ショーケースであり、競合他社への強烈な「中指」に他ならない。
この変革の真価を、世界で最も影響力のある自動車レビュアーの一人、Raz(ラズ)の鋭い視点とともに解き明かしていこう。
独創的なレビューと鋭い批評眼で世界中を熱狂させるRazのプロフェッショナリズムに、最大限の敬意を表して。
https://www.youtube.com/watch?v=F0f5i_9qC0A
2 . 核心を突く5つのエッセンス
新型GLBがなぜこれほどまでに騒がれているのか。忙しい読者のために、Razの指摘を5つのポイントに凝縮する。
- 「ホース」から「消防用ホース」へ: 800Vアーキテクチャと次世代NMCバッテリーの採用。従来のEVが家庭用ホースでの給水だとすれば、これは消防用ホースで一気にエネルギーを流し込むような、異次元の充電・放電能力を誇る。
- 上位モデルを食う演算能力: SクラスやGLEと共通の「スーパーブレイン(SoC)」を惜しみなく投入。もはやスマホの延長線上ではない、高度な自律走行を見据えた知能を手に入れた。
- 外見を裏切る暴力的な加速: 350 4MATICは0-100km/h加速わずか5.1秒(実測値)。箱型の実用車が、ひと世代前のスポーツカーをバックミラーに追いやる。
- 最強のファミリーウェポン: 最大7人乗り、かつ計5つのチャイルドシート(後席4、助手席1)を装着可能な、クラス唯一無二のパッケージング。
- 「EQB」という妥協の払拭: 内燃機関モデルの流用だった旧世代の不自然な設計を捨て、最初から「最高のEV」として完成された。

3. MMAプラットフォームと「スーパーブレイン」のUX解析
新型GLBがポルシェ・タイカンと同じ土俵で語られるのは、その贅沢すぎるハードウェア構成にある。
パワートレイン:フォーミュラEの技術をスーパーへ
リアモーターにはシリコンカーバイド(SiC)インバーターと、このクラスでは異例中の異例である「2速ギヤボックス」を搭載。これはスーパーマーケットへの買い出しに、フォーミュラEの変速技術を持ち込むようなものだ。低速では猛烈なトルクを、高速では電費効率を最大化する。 さらに350 4MATICには、フロントにASM(非同期モーター)を配置。特筆すべきは「DCU(ディスコネクト・ユニット)」の採用だ。低負荷時にはフロントモーターを完全に切り離し、引き摺り抵抗をゼロにして航続距離を稼ぐ。このメカニズムこそ、テック好きを唸らせるエンジニアリングの極致だ。
ADASとUX:Unityエンジンが描く「世界」
車内には「スカイ・コントロール・ルーフ」が広がり、暗闇では星空のようなライティングが乗員を包み込む。まさに「リトルSクラス」の面目躍如だ。 この贅沢な空間を支える「スーパーブレイン」は、Unityゲームエンジンを用いた直感的なUIを描き出す。自動駐車システムでは、周囲の車両や障害物をリアルタイムで3Dレンダリングし、まるでビデオゲームを操作するような感覚で完璧な駐車をこなす。
ビルドクオリティ:プッシュテストへの回答
先代モデルで不評だった、ダッシュボードを強く押すと発生する「きしみ音」。新型ではこれが完全に払拭された。スイッチ類はGLCと共通化され、触覚的なフィードバックは重厚そのもの。メルセデスは、小さなSUVであっても「剛性感という名の贅沢」を削るのをやめたのだ。

4. 静寂のSクラスか、野獣のAMGか
スペイン・マヨルカ島。Razが挑んだ試乗コースで、GLBは驚くべき二面性を見せた。
350 4MATICの二面性
アダプティブダンパーを備えた350は、コンフォートモードでは「磁力で浮いている」かのように路面の凹凸を消し去る。しかし、スポーツモードへ切り替えれば足回りは即座に引き締まり、ボクシーなボディからは想像できないほどのロール抑制とポイズ(落ち着き)を見せる。
サウンド設定のユーモア
静寂なEV走行に彩りを添えるのが「サウンド・エクスペリエンス」だ。Razが思わず苦笑したのは、そのネーミングセンス。「Granular Fuzz(粒状の産毛?)」という、まるで誰かのプライベートな部位を指すような名前の設定まで存在する。しかし、こうした遊び心も、メルセデスがEVを単なる移動手段ではなく、エンターテインメントとして捉え始めた証左だろう。
グレード選びの落とし穴
ここで重要なアドバイスがある。回生ブレーキの操作性だ。AMGラインにはステアリング裏にパドルが備わり、内燃機関のシフトダウンと同じ感覚で減速を制御できる。対して「250+ Sport(ベースグレード)」は、シフトレバーでの操作を強いられる。この「直感性の差」は大きく、テック系ライターとしては迷わずパドル付きのAMGラインを推奨する。

5. GLBの市場価値
インターネットの海では、新型GLBの大胆なデザインを巡って論争が起きている。
- 「Raz、君は目が悪くなったのか?」: フロントのライトバーに対し、保守的なファンからは辛辣なコメントが並んだ。しかしRazはこう反論する。「実物を見ればわかる。このボクシーな『ミニGクラス』のフォルムには、CLAのような滑らかなスタイルよりも、このライトバーの方が遥かに似合っている」と。
- 過剰スペックへの賛辞: 「コンパクトカーにここまでのコンピューティングパワーが必要か?」という疑念に対し、多くの視聴者は「これこそがメルセデスの進むべき道だ」と喝采を送っている。サイズは小さく、中身は最高級。この等式が、市場の支持を得つつある。

6. まとめ
私は、新型GLBこそが日本における「メルセデスの正解」になると確信している。
日本の路地を支配するパッケージ
日本の機械式駐車場における「1,850mmの壁」を考慮したとき、GLBのサイズ感は最強の武器だ。それでいて127Lのフランク(フロントトランク)には機内持ち込みサイズのバッグが2つ収まり、室内には最大7人が乗れる。この「物理法則を無視したような実用性」は、大型化したGLCやGLEでは得られない機動力だ。
価格対価値のシビアな分析
英国価格は46,000〜57,000ポンド(約870万〜1,080万円)。日本導入時には1,000万円前後の値札が付くだろう。上位モデルのGLC(約1,100万円〜)と競合するが、私なら迷わずGLBを選ぶ。なぜなら、一世代前の設計を残すGLCに対し、GLBは最新のMMAプラットフォームという「未来」を先取りしているからだ。
メルセデスはついに、小さな車に乗ることを「妥協」から「賢明な選択」へと変えた。新型GLBは、サイズによる階級をテクノロジーで無効化したのだ。ディーラーでこの「リトルSクラス」に触れた瞬間、あなたは今乗っている車の「作り込みの甘さ」に愕然とすることになるだろう。
迷う必要はない。これは、新時代のメルセデスが放つ、最高の一撃だ。


